*  思い出のアルバム  *

* 第2回「大人のための動物園講座」
  −王子動物園を194倍楽しむ方法−




講座
 昨年、初めての開催が大好評だった「大人のための動物園講座」。
 2回めの今年は、応募者465名の中から、 抽選で100名の当選でしたが、当日26名の欠席があったため、 74名の方が参加されました。 参加者の多くは神戸市内在住ですが、中には京都、岸和田、三木市から、 16歳から60歳代の動物の大好きな大人が集まり、にぎやかに開催されました。

◆ゴリラが王子動物園からいなくなった理由◆・・・ 権藤 眞禎館長

講座 1)王子動物園のゴリラの歴史
【ザーク】
 1963年(昭和38年)上野動物園から、4歳で来園したオスの「ザーク」。 1984年(昭和58年)に亡くなりましたが、 体重世界一というギネスブックにのる記録の持ち主でした。

【ケンタとヤスコ】
 1982年(昭和56年)移動動物園より、オスとメスのゴリラがやってきました。 繁殖を目的としたブリーディングローンの為、メスのヤスコは平成4年に、 オスのケンタは平成10年に京都市動物園に行きました。 ですから、現在王子動物園にはゴリラはいません。

2)なぜ京都市動物園へ?
 ゴリラは最も絶滅のおそれがある動物に属され、野生はもちろん、 飼育している動物園でも、世界規模で繁殖させる為に努力しています。
 世界136ヵ所の動物園でのニシローランドゴリラの飼育数は、現在741頭。 内、日本では17ヵ所の動物園で40頭(オス21頭、メス19頭)が飼育されています。 今迄日本の動物園での繁殖例は、京都で2回、高松で1回のみと、 非常に少なく、難しいものなのです。
 ゴリラは群れで暮らし、その群社会のなかでいろいろな事を学び、 そして結婚相手を選び、子どもを産み育てます。 その為各動物園で飼育しているゴリラを集め、群れで生活し繁殖させる為に、 ケンタとヤスコを京都市動物園に貸し出しました。

3)なぜケンタとヤスコに赤ちゃんができなかったの?
 ケンタとヤスコがまだ小さい時に人間に捕まえられた為、 恐らくゴリラの社会教育を受けておらず、社会性を身につけていない。 また幼い頃から一緒なので、お互いに発情しないのではないだろうか。
        ↓
 ゴリラ本来の群れで生活させることにより、社会性を身につけさせる。 群れのなかから、結婚相手を選ぶ。
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 京都市動物園では、オスのケンタ1頭にヤスコを含むメス3頭で飼育し、 新しい赤ちゃんの誕生を心待ちにしています。


◆トラの夫婦◆・・・岸田 一也班長主任
講座
 私は幸せな事に、王子動物園開園以来、 3夫婦のトラの飼育をすることができました。 そしてわかったことは、それぞれの夫婦の特徴があり、 子育てのうまいお母さん、 反対にへたなお母さんというように個体差があることです。
 今日は、夫婦仲のよかった2代目の「猛男」と「縞子」を紹介します。

1)2代目、「猛男」と「縞子」の子ども時代
 昭和43年2月2日、「猛男」と「縞子」は6ヶ月で来園しました。 大きさはシェパードぐらいで、体重30〜40kg。 人間に例えると3〜4才の保育園児ぐらいで、遊びざかり。 枯れ葉1枚落ちてくればそれをおもちゃに1時間でも2時間でも遊び、 なかでもかくれんぼが大好きな子ども時代でした。

2)子育てはへただった「縞子」
 昭和47年、初めての出産で3頭の赤ちゃんを産みましたが、 お乳を与えなかったので人工保育をしました。 「縞子」は13回の出産で、合計29頭の子どもを産み、 やっと4回目より、自分で育てるようになりました。 人工保育の子を入れ、50%以下という15頭しか育っていないことから、 トラの育成率が低い事を物語っています。 4回目よりやっと自分で子育てを始めた「縞子」は、 子育てに関してはあまりじょうずとはいえないでしょう。

3)日本一の夫婦
講座  トラの寿命は17〜18才といわれています。 昭和59年17才になった「猛男」は、高齢のため痩せてきました。 そこで、トラの前にこんな立て看板をたてました。 「このトラは痩せていますが病気ではありません。 人間の70〜80才の老人です。あたたかく見守ってください。」
 お客さんに正しい情報を与え、正しい理解をしてもらうことが大切なのです。

【オスの「猛男」が運動場に出られなくなった】
 昼間は、2頭運動場で過ごすことが日課になっていますが、 昭和60年2月のある日、先に「縞子」が運動場に出てきたのですが、 オスがなかなか出てきません。
 「猛男」はまっすぐ歩くことができずに、もう外に出られなくなっていました。 「猛男」が運動場に出なかったのは、17年間ではじめての事でした。

【その時メスの「縞子」は】
運動場にいる「縞子」は、 「猛男」の寝室のベッドが置いてあるあたりの壁沿いを、 右へ左へと約55分間行ったり来たり。
 小さな覗き窓から覗き、なかにいる「猛男」を心配しているのです。 夕食の時間、いつもなら肉の所に一目散で来るが、 網で仕切られている隣の「猛男」の方をじっと見ているのです。
 それぞれの寝室で寝ている時も、「猛男」が何か物音をたてれば、 すぐ頭をあげて確認するなど、 いつもとは違う「猛男」を気遣う「縞子」の姿がありました。

【日本一の夫婦】
  「猛男」は17年と7ヶ月、 「縞子」は18年と7ヶ月間王子動物園で生活し、 天寿をまっとうし天国へ旅立ちました。
 子育てについては、あまりじょうずとはいえない「縞子」でしたが、 晩年の2頭の姿を見て、夫婦という面ではお互いを心配し、 思いやりのある日本一のトラの夫婦でした。

4)セイブ・ザ・タイガー
 野生のトラは人間による密猟のため、その数は激減しています。 すでに3500頭以下だそうです。 トラの肉を食べ、美しい毛皮や漢方薬として珍重され、 それらの需要があるために密猟が続けられています。
 ミャンマーではポスターも作られ、 「セイブ・ザ・タイガー」の運動がされています。
 私たちのできることは、そのような商品を買わない!ということです。 野生動物の保護を、できるところからしていってください。

◆飼育調理室、動物病院、バックヤードなど見学◆
 ゾウ、アシカ、コアラ、チンパンジー、サイの5班に分かれ、 普段見ることのできない部分の見学や体験をします。

 今回は「チンパンジー班」の体験行動を紹介します。

【チンパンジーの育ちゃん、スクスク発育中】
チンパンジー  H10年12月13日誕生し、人工保育中の育ちゃん。 手作りの育児箱から抱き上げられてみんなの前に出てきた育ちゃんは、 真ん丸な大き目をキョロキョロさせ、ぎゅっと飼育員の服をにぎりしめ、 その小さなおしりにはかわいいおしめが・・・
 生後69日めの育ちゃんは、まだ首がしっかりと座っていません。 1回100前後〜120mlのミルクを哺乳瓶で1日5回飲み、体重は出生時の2倍の3000g。 今迄は与えるだけ飲んでいましたが、 今では自分で飲みたいと思う量をコントーロールしているようです、と飼育員。

育ちゃんを 抱っこ
チンパンジー  育ちゃんを抱かせてもらって、初めての体験にみなさん興奮ぎみ。
 育ちゃんも緊張して、時折「クー」という声をあげています。 「わー、人間の赤ちゃんと一緒」「もうこの感覚わすれてしまったわ」 「2ヶ月の孫よりこの子の方がしっかりしてる!!」 みんな大騒ぎです。

飼育係手作りの育児箱
飼育箱  保育器を卒業した育ちゃんは、 現在木の目の美しい育児箱の中で1日を過ごしています。
 これは飼育係の手作りなのです。 中は2段になっており、 下の段にはバスマットウォーマーがセットされ、 育児箱の温度を25℃に保っています。 やけどをしたり、足や首などにコードを巻き付けて事故を起こさないように、 暖房機は下の段にセットされ、 コード類も育ちゃんには全く触れないようになっています。
飼育係: 「大工さんに頼めばもっときれいな飼育箱ができますが、 事故を起こさず快適に暮らせる工夫など、 飼育でしか分からない事がたくさんあります。 なにより、育ちゃんのためにという気持ちから、 造ったのです。
 怪我をしないよう、中の木の表面はつるつるに磨いていますし、 開閉扉の透明板も、育ちゃんが大きくなれば鉄格子に変える予定」

飼育係担当職員に聞きました。
Q1:今迄1番気をつけていた事は?
飼育係:「それはインフルエンザや風邪。 スタッフで風邪の人は、この部屋には入れないし、 自分もひかないように気をつけました。」

Q2:今後、育ちゃんに望むことは?
飼育係:「この子が大きくなり、チンパンジーの群れへの仲間入りができ、 そして自分の子供を産み、育てるようなることです。 人工保育している期間だけではなく、 これから長いスパンで見守っていかなければなりません。」

 たくさんのスタッフの愛情を一身に受け、あたたかく見守られながら、 すくすくと育ちゃんは成長しています。

 園内のそれぞれの動物の大きさや嗜好にあわせ、 食事の準備をする「飼育調理室」や、 普段見ることのできない「動物病院」を見学し、 動物園のすべての動物に、 いかに多くのスタッフの手間と愛情がかけられているかを実感した、 今回の「大人のための動物園講座」でした。

●参加された方の感想を紹介します●
・野生動物の保護について勉強になり、実際の飼育体験談は感動しました。
・今まで「サイ」なんて触ったことなかったので、感激!
・大人が参加できる、このような機会やセミナーを増やしてほしい。
・動物にふれあえる機会をどんどん増やしてほしい。
・今回は「ゾウ班」だったので、チャンスがあれば違う班を体験してみたい!



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