飼育レポート


動物交流の準備
  
写真  神戸市の友好都市である中国、天津市との動物交流のため、王子動物園からキリン1頭、シマウマ1頭、ラマ3頭、 チンパンジー1頭の計6頭を搬出することになりました。
今回は外国に贈るので、検疫を実施しなければならず、手続きを終える頃には8月になっていました。 動物の輸送は、夏場は非常に難しく、オリの設計も通気性を重視するよう、何度も検討し、 約1ヶ月でオリの設置作業まで完了しました。キリンやシマウマのような用心深く力の強い動物は安全にオリへ収容するために、 2週間はオリに慣らします。

さあ!出発だ
 
写真  さあ、いよいよ輸送してくれる船も決まり出発の日がやってきました。飼育係全員が朝4時頃に出勤し、あわただしく準備にとりかかりました。 順調にキリン、ラマ、チンパンジーは収容できました。シマウマだけが収容できずに時間だけが過ぎ、飼育係全員にもあせりがみえはじめました。 そこで、板を盾に人の手で押し込むことにしました。シマウマの強烈な後ろ蹴りに怯むことなく少しずつ押し込み、途中シマウマが暑さで弱る前に水をかけ、 全員の気合いで収容完了。気も遠くなる暑さの中2時間の死闘でした。予定より少し遅れましたが6頭みんな無事に動物園を出発することができました。

「燕京号」での48時間の船旅
 
 港でも検査待ちのため、すぐに乗船できませんから、その間も、気温は上がる一方です。 水をくんで来ては動物の体にかけて体温を下げさせなければなりません。 今回動物を輸送してくれる船は中国の燕京号(1万トン)で船倉の一番すずしいところに置いてくれる事になっていました。 実際に船倉に入ってみるとかなり暑く、先輩たちに「暑いから、水を何度かかけてやれ、 餌はやりすぎるな」等のアドバイスを受けていましたので十分注意をしました。
 園関係者はじめ多くの人に見送られ感激の神戸出港でした。さあ、これからは中国まで輸送を担当する飼育係長と僕の二人だけです。 動物も落ち着かないようですが、僕自身も落ち着かず動物を無事に運ばなくてはという責任がずっしりと重くなりました。
 船内での飼育作業は、1回30分程で、飲み水の交換を中心に乾草等の補充等でした。 なにしろ暑く数分で汗がふき出し、考えていたより大変な作業でした。
 航海は順調、波はおだやかで夜になる頃にはキリンも餌を少し食べ始め、ひとまず安心しました。 午前1時30分最後の作業が終わり、甲板で一人、動物の輸送は何て大変なんだろう、 昔に動物を運んだ先輩たちはどんなに大変だったかを改めて思いました。
 船の二日間は動物たちにとっても、僕たちにとってもかなり長い旅でありましたが、みんな無事で中国の天津港に着くことができました。

天津での歓迎に満足感
 
写真  天津動物園の関係者にあたたかく迎えてもらったときは、感動で胸が一杯でした。 天津動物園での搬入作業は順調に完了しました。そして天津動物園での搬入作業は順調に完了しました。
 次の日には天津動物園で動物の贈呈式が行われました。
 動物たちの無事な姿を見ることができ、これで僕たちの任務は無事果たせたと満足感に浸りました。
 天津動物園は広く、飼育環境も大変素晴らしいと思いました。 特にモニター室は、多くの動物を何台ものテレビで観察できるしくみになっており、まるでテレビ局のようでした。
 この度贈った、キリンやシマウマ、ラマ達は、広い芝生の上に放し飼いにされていて、 僕たちや入園者までもが動物に近づけて、とても日本では見られない展示方法で、お国柄の違いにおどろきました。

貴重な体験に感謝
  
写真  天津動物園には、以前に神戸から贈ったカバも子どもを産んでいました。すなわち当園のカバ「茶目子」の孫にあたります。 僕たちが輸送した6頭の動物の繁殖も願わずにはいられません。
 このように貴重な体験と夏場の難しい動物輸送が無事に終わった陰には天津の人たち、 そして王子動物園の仲間たちの友情と協力があってこそ実現できたもので、それらの人々に改めて感謝する次第です。